アラクネの書棚

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

  1. --/--/--(--)
  2. | URL
  3. | EDIT

うひょ氏『月光シロシヒカリ』(SF,長編)

近未来の月と地球を舞台に描かれる、新機「イクユミヤ」の開発とテストパイロットとなった少年の成長。
■『UN ART-FICIAL STORY』→PRODUCTS→『月光シロシヒカリ』

以下感想、ネタバレあり。
Open▽
 SFはまず、物語の舞台を作らなければならない。それが、いわゆる現代ものと異なるところだ。

 作品世界を、パノラマ模型に例えてみる。まず、ベースをつくる。山とか谷とか平地とか、地形は最初につくって置かなければいけない。ここは砂漠、ここは草地、このあたりには道路。それから、木や岩や家といった、小道具を置いていく。

 「あらすじ」は、模型のベース。「テーマ」も、ベースだ。2者は、小道具を置く前に作り上げておいたほうがいい。模型で、道路と町を作ったあとに、「やっぱりここには山を置こう」とか言い出すと、オオゴトだ。

 「設定」や「ガジェット」は、模型の小道具だ。パノラマ模型で森をつくるとき、小さくて細い木の模型を、植え込んでいく。意図する立ち方になるよう、ときにはピンセットのような道具まで使って、丁寧に。それを何十も繰り返して、ようやく森が表される。

 SFを読むとき(あるいは書くとき)、サイエンス系の設定をどこまで説明するかは作者によるし、どこまで読むかは(実は)けっこう読者に任されていることが多い。えんえんと説明が続くSF小説は多いが、全部読まないと話が理解できない作品は少ない。親切な作者になると、読まなくてストーリー理解に支障がない説明には、それを意味する"マーク"がついていたりする。
 たとえば『月光-シロシヒカリ』の第7話の医者の長台詞には、主人公・巧が「医者の話す言葉の意味はわからなかった」という描写がある。こういうときは、だいたい、「読まなくてもなんとかなる」……というのが、SF読みとしての経験則なのだが、他の読者サマ、ご異見あればよろしく。

 ろくに読まれない説明部分に、作者は多大の手間をかける。科学解説を読み、それを自分の文体のなかで浮かないところまで、咀嚼し、書きかえる。
  私はときどき、北原白秋の『邪宗門秘曲』を思い出す。
(「邪宗門秘曲」でページ内検索してください)
 センテンスの意味より、むしろ、ある雰囲気をもつ単語を重ねこむことで、その雰囲気が引き寄せられる。
 サイエンスの言葉を重ねることで、「SF」……サイエンス・フィクションは、引き寄せられる。


 読者に「作品世界」を見せるという責務があるから、SF作者は、それ以外の要素よりも、世界を見せる手法を優先することがある。私が『月光-シロシヒカリ』について「人物視点の揺らぎ」を(他の方の感想を読むまで)ほとんど気にかけていなかったのは、そのあたりと関係があるような気がしている。

 作品世界へ読者を案内するのによく用いられるのが、主人公を作品世界のなかで動かして、その周辺を描写してゆく、という手段だ。
 ちょうど、パノラマのうえに、汽車模型を走らせるように。汽車の乗客は、読者の視点だ。

『月光-シロシヒカリ』の主人公は、(月の) 巧 と──イクユミヤだったんじゃないかと、と思う。

 物語は、巧の動きとイクユミヤにまつわりながら進んでいく。ヨーコや張のシーンで、巧が出ないときにはイクユミヤが話題となる。
 イクユミヤは、物語の"ベース"の一つである国家間緊張と宇宙開発の象徴であり、もう一つ、"飛翔"を象徴する。
 巧は、月都市で生まれたただ一人の子供。月には空気がなく水がなく火山がなく、月都市は地下に設けられた閉鎖空間だ。地下都市から、宇宙へ。閉塞から、飛翔へ。ちなみに、イクユミヤ(生弓矢)とは、日本神話で、オオクニヌシノミコトが根の国を脱するときに持ち出した武器の名前である。

 少年を内に抱き、女の夢を負い、男の思惑を乗せて、イクユミヤは飛ぶ。少年は、飛び立ち、帰還する。父の台詞が繰り返され、物語の主題の一つを明確に描き出す。

 "ヒロイン=イクユミヤ"を、あまり"美人"にお書きにならなかったことが、プラスに出ているか、マイナスに出ているかは、ちょっと判断しがたい。あんまり"美人"が出るとたしかに話がミーハーっぽくはなるんですけれども、たとえば『戦闘妖精雪風』*は"ヒロイン"が"美人"であることがやはり作品の魅力の一部だったりしたたわけで……、なぁんて語ると、他の方にドン引かれそうなので。
 もうここでやめます、はい。



『戦闘妖精雪風』*神林長平作品。登場する戦闘機「雪風」が、繊細な美しさをもっていて、しかもその描写がかなり繰り返し出てきた記憶がある。読み返さずに書いててすみません。

Close△


- オンライン小説に愛を/小説・文学

  1. 2006/01/26(木)
  2. | URL
  3. | TB:0
  4. | COM:0
  5. | EDIT

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://arachne.blog61.fc2.com/tb.php/14-ee4a126f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad


Template:AdanKadan

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。