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ほたる氏『バベルの塵』(幻想FT,13枚)

塔に魅せられた一人の男……。魔法も精霊も登場しないにもかかわらず、ファンタジーの香気を感じる短編。ねこK・Tさん主催の『覆面作家企画 わたしはだあれ?』参加作品。
■ほたる氏サイト:彩色分光→創作品→『バベルの塵』

以下ネタバレ感想。
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 『バベルの塵』というタイトルに、「塔」が登場する。
 当然、“バベルの塔”に結びつく。物語には「辞書」も登場し、言葉が乱されたという聖書の記述を連想させる。
 だが、
>彼がこの街で暮らしていたのは、今から半世紀ほど前、まだこの街に瓦斯燈が灯り、石畳を馬車が駆けていた時代のことだ。
 という描写、あるいは一人称の文体のなかにさりげなく登場する「爆心地」という単語は、旧約聖書の“バベルの塔”の時代イメージとは、いささか異なる。
創世記 第11章
世界中は同じ言葉を使って、同じように話していた。
東の方から移動してきた人々は、シンアルの地に平野を見つけ、そこに住み着いた。
彼らは、「れんがを作り、それをよく焼こう」と話し合った。石の代わりにれんがを、しっくいの代わりにアスファルトを用いた。
彼らは、「さあ、天まで届く塔のある町を建て、有名になろう。そして、全地に散らされることのないようにしよう」と言った。
主は降って来て、人の子らが建てた、塔のあるこの町を見て、 言われた。 
「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない。
我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう。」
主は彼らをそこから全地に散らされたので、彼らはこの町の建設をやめた。
こういうわけで、この町の名はバベルと呼ばれた。主がそこで全地の言葉を混乱(バラル)させ、また、主がそこから彼らを全地に散らされたからである。


 『バベルの塵』の「塔」は、“バベルの塔”なのだろうか? 聖書の記述では、神罰によって一つの文明が破棄されたとも読めるから、もしかしたら、その直前には瓦斯燈も爆弾もあったかもしれない。そういう解釈もできる。
 または、聖書を離れて、いつかどこかで行われた、人類の愚行の一つとして想定したとも釈れる。

 聖書において、“バベルの塔”は神に否定される愚行として描かれる。
 『バベルの塵』にも、いくつかの愚行が描かれているように思われる。
 かつては神聖であったのに、現在はその目的を見失いつつある、「塔」の建築。
 もはや世間では混同されているのにもかかわらず、延々と続けられる男性名詞/女性名詞の区別と、「辞書」の編纂。
 建築の途中の「塔」を、完璧に描きたい、という画家の衝動。
 「重し」でしかないはずの鉛直球に人が住まう。
 作業員の手向け花と、鉛直球の内部での蒐集。
 微妙に重なり、微妙に距離をもちながら、何かを少しずつ積み重ねていく行為が、繰り返し描かれる。それらは、実用からはズレている。「にもかかわらず」、だろうか。それとも、「だからこそ」なのだろうか。どこか愛おしく、美しい。
 主人公は、いくつかの愚行にかかわりあう。とくに「塔」は、愛おしいどころではなく。壊してしまいたい衝動にかられるほどに、魅かれている。アンビバレンツな思いさえ、衝動的・一時的なものではなく、日々落ちる花の蓄積の形をとる。

 完成しなかった絵、
 実用に遅れた辞書、
 崩壊に向かう塔。

 結果としては無駄の積み重ねの一生をすごした主人公を、作者は決して嘲笑っていない。一人称という形式のせいだけでなく、作者は主人公にシンパシーを寄せているように見える。作者の静かで穏やかな視線は、私だけでなく、読者に反発を感じさせないのではなかろうか。少なくとも私自身は、、主人公とともに、塔の崩壊を静かに待つ心境へと導かれるような気がした。

 旧約聖書を読み返すと、塔が破壊されたという記述はない。けれど、後世、塔は破壊されたものと解釈されてきた。天に届く塔は、破壊されるべきだという思いは、誰しも、どこかにあるのかもしれない。

 これについては実は、作者サマ了解済みなので、「勝手に書きました」カテゴリーではないのですが。
 カテゴリーをわさわさと増やしてもしょうがないので、ここで^^

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  1. 2006/04/13(木)
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作者:ほたる [サイト] 作品:バベルの塵/?/掌編感想:うわ、すっげえ。 読み終わった瞬間の言葉はそれでした。少々品がないですが、まあそれも雁乃だってことで。 時代背景
  1. 2006/04/15(土) 19:26:13 |
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