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林氏『眠り病』(幻想小説、8枚)

 村に、眠り病にかかっていると噂される娘がいた。旅の修道士が施療を依頼される。
──悪夢の臭いが立ち込める、短編幻想小説。
■林氏サイト『文技研』→作品・完結→『眠り病

以下、ネタバレ感想。
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 先日、『無音潜行』で書いたことと重なるのだが、林氏の作品は、バラエティ豊かだ。

 軍事アクション系の作品では、歯切れのよい骨太の文体で戦闘機や戦車を扱う漢(おとこ)たちを描きだすかと思えば、薄墨を重ねた絵のような幻想的な作品を描く文体も持ち合わせておいでだ。
 『眠り病』は、後者にあたる、ファンタジーという語よりも、幻想譚という言葉の似合う作品である。

 冒頭、眠り病の少女が描写される。
 眠ったまま目を覚まさないのでは、ない。
 起き上がるのだけど、突然眠り込んでしまったりする。文体のリズムは重く、少女のけだるさそのものを読者に感染させようと企んでいるかのようだ。
 旅の修道士が登場するが、名前は示されない。眠り病の少女も、修道士の立会いとなる司祭も、名前は明かされない。そのことが、まるで、灰色の霧のなかの人影のように、登場人物の輪郭を曖昧にし、読者との境界もぼかしてしまうように感じられる。
 娘が日の光を嫌うことが、眠り病が身体や精神の病ではなく、超常の存在の介入であることを暗示し、やがて異形の獣が姿を現す。
 修道士は、香に法陣に鏡、刻印のある枕など、彼の持つ手段を駆使して、これに立ち向かう。
 RPGファンタジー的な“にぎやか”な描き方もできるであろう対決シーンにあたっても、作品は、幻覚のような色合いで静かに塗りこめられたままだ。
 物語の中の夢と現実が揺らぎ、並列して、物語世界が読者の脳裏を侵食しようとするように、異様な光景を提示する。

 全体に、文体は乱れない。
 けれど、夢のなかで特定の事物だけ奇妙なほどにくっきりと記憶が残るように、いくつかのシーンがグロテスクに鮮やかで。
 ……悪夢のようなのだ、物語の全体が。

 時計を見る娘に憑いた獣は、止まった時計に騙されて、倒される。
 獣に対峙し、剣をとって戦った修道士は、感謝が示された描写さえなく、淡々と村を去る。
 読者もようやく、日常に帰ることが許される。 


 話題は少々、この一つの作品からそれてしまうのだが。
 先日、某講演会で、プロの編集者がこんなことを言っていた。
「短編はいくつか束ねないと、書き手の色合いがでない」
 林氏のサイトを読み進めていると、短編を束ねた色がさらに何色も束ねられて、多色の花束を差し出されているようだ。『眠り病』や『忘れ花』の霧と夢のような薄墨の色、『月と猫と僕』『黒の部屋 』の月光や灯火の色、『ナハトイェーガー』や『少年と戦車』の鉄と錆の色、『科学屋奇譚』のどこか懐かしいセピア色。一つリンクをクリックしたその先に、どの色合いが待っているか、予想がつかない。
 ……今後とも、林氏のご活躍をお祈りします。

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  1. 2006/05/06(土)
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