アラクネの書棚

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うひょ氏『雪の山の熊と人』(おとぎ話,29枚)

 雪深い冬の山にあるオルウンの山小屋に、まず二人の旅人の訪れがあった。旧友ワタワが語る一年前の物語は……。
──含み笑いを潜ませたような、温かなおとぎ話。
■うひょ氏サイト『UN ART-FICIAL STORIES  アイノナイ ワケジャナイ モノガタリタチ』→PRODUCTS→『雪の山の熊と人

以下、ネタバレ感想。
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 冒頭、悲しげで不思議な獣の声がするのだけれども、次のシーンからは、どこか陽性に物語りは進む。

 山小屋。薪。暖炉。大きな耳をパタパタと揺らす犬のミミ。
 温かで懐かしい語彙に彩られた描写。
 真夜中になって山小屋に姿を現す訪問者たちさえ、(凍死の危険もあるはずなのに)陽気で、小ふざけた歌を歌いだす。

 歌の甲斐あって、山小屋の炉辺へと迎え入れられたオルウンの旧友ワタワは、去年の冬に出会ったという熊の話を始める。

 ワタワは冬山で、熊が冬眠する巣穴に転がりこんだ。すると、熊は目を覚まして言うのだ。
「わたしはだれですか」
 この物語を「おとぎ話」とさせていただいたのは、熊が喋っても何の不思議も抱かない「別世界」を舞台にして見えるから。けれど、熊が人を喰う世界ではあるらしい。
 ワタワは、寝ぼけた熊に、
「君は人間だ」
と言って、喰われることなく、難を逃れた。

 ワタワの話が終わったちょうどそのとき。
 熊が山小屋を訪ねてくる。ワタワは狼狽するが、オウルンは熊を小屋に招き入れ、ココアでもてなし、こんなことまで言う。
「ワタワは君に会いに来たんだよ」
 実際のところ、そうなのだろう。冬山の危険は、先年、身にしみているのだから。
 熊は、この一年の間、自分を人間だと思ったまま過ごしたという。どこへ行っていいかも判らず、冬眠もできずに。
 そこで、ワタワは仕方なく、
「君は熊だったのさ」
と明かす。
 ただ、明かすのだ。真実として。銃で身を守ることも、事前に「襲わない」と約束をとりつけることもなく。

 そして、この答えに納得した熊は、熊であることを心から喜んで、ねぐらへ帰っていく。

 オルウンは、犬のミミに問いかける。
「なあ、ミミ。君はどうだい? 君は犬でよかったかい」
 ミミは人語をしゃべったりはしない。ただ嬉しそうにワン!と鳴く。
「人間がそれほどいいものかどうか、なんだかわからなくなってきたよ」
 オルウンの台詞で、物語はエンディングを迎える。
 冒頭の悲しげな獣の声に呼応する表現で、喜びに聞こえる声が山に響く。

 「あなたがあなたであることの、あなたの喜びの物語」。そんなふうに、見える。
 私の、ではないのだ。どこともしれない誰かの、でもない。主人公の目の前にいる者の喜びだ。あたたかく懐かしく、小ふざけているかもしれないが、シニカルではない、そんな視線が、「自分以外」の存在を肯定する。


 世の中には、「あまりにも当たり前で、凡人は、普段、意識することを忘れているようなこと」がたくさんある。そのうちの一つを丁寧に掬い上げ、美しい文章で提示する──、うひょ氏には、そんな短編が、これ以外にもいくつかある。ありふれた言葉で、当たり前のことを語っても、読者の心には響かない。うひょ氏は、それを"言葉"でもって、ある種の輝きをもった"真実"にまで磨きあげる。この短編にもその輝きが満ちている。



 超スローペースではありますが、このブログの「イチオシ」コンテンツ(にする予定)の、作者サマに一作自薦をお願いしての感想、第二弾です。

 うひょ氏サイトは、短編はコンプリート(全作品拝読済)なので、「どの作品でお返事がいただけるだろう」と、わくわくしながら、お返事をお待ちしました。楽シカッタ~~


 なお。このささやかな感想文を読んでくださった方は、できましたら、林氏による書評もご一読ください。

 どちらが正しいとか正しくないとかいうことは、無論、なく。
 作者の意図にどちらが近いか、ということも、私個人にとっては、二の次だったりもして。
 ただ、受け取る人によって物語がどれほど異なるかの例示として、面白いのではないかと。(わざと逆方向に書いたということは、絶対にありませんので、念のため)

(これをもちまして、『読むことの構造』への返信を兼ねさせていただきたく(笑))

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- オンライン小説に愛を/小説・文学

  1. 2006/05/15(月)
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コメント

ありがとうございました。

 感想、ありがとうございました。
 麻生さまに感想をいただけるということで、落ち着いてご報告を待つことができず、いまかいまかと何度も様子を見に来ておりました。
 そんな待つ時間も、完成した感想を拝見している間も、本当に楽しい一時で、麻生さまには、ただただ感謝するばかりです。

 御礼もままなりませんが、麻生さまのさらなる御活躍をお祈りし、失礼させていだきます。

 ではでは。 
  1. 2006/05/16(火) 00:32:48 |
  2. URL |
  3. うひょ #yjwl.vYI
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うひょさん、いらっしゃいませ^^

ごめんなさい、すっかりお待たせしてしまったのですね。
好きな味のキャンディをゆっくり舐めるみたいに、しばらく、切ったり貼ったりつないだりして遊んでました^^;>感想
  1. 2006/05/16(火) 00:45:07 |
  2. URL |
  3. 麻生新奈 #z8Ev11P6
  4. [ 編集]
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