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南方南氏『尸虫之闇~大正ゾンビ・ハンター』(FT,77枚)

 風の強い闇夜。古びた家の扉を、叩く音がした……。
 大正時代の農村を舞台に、ゾンビと複数の追っ手が交錯する。
■南方南氏サイト『南半宮』
ジュブナイルステークスSFFチャレンジトロフィー『尸虫之闇~大正ゾンビ・ハンター』

以下感想、ネタバレあり。

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この感想は、作者様に事前の連絡をお取りした上で、「辛口」前提で書かせていただいたものです。なお本作は、現在、作者の手によって長編化が進められているとのこと。



 最初の前提として。本作品はジュブナイルステークス、SFFチャレンジトロフィー最多得票作品であり、レベルの低い作品ではない。

 このレベルの作品に「いい作品なのに、感動、というところまでいかない」「なんとなく、ぴんと来ない」という1行感想以上に具体的な「辛口感想」を書くのは私個人にとってもチャレンジだった。

 読了後すぐにもった感想は、まさに、上のとおりのものだった。
「いい作品なのに、感動、というところまでいかない」
「なんとなく、ぴんと来ない」

 原因をさぐりながら再読してみた。

 まず、全体分量は77枚。一応は見たのだが、『SFFチャレンジトロフィー』の制限枚数の具体的な数字を見つけることができなかったので、制限ぎりぎりかどうかについては、今回は考慮から省く。

 冒頭のシーンは──。
 この物語のなかで、冒頭シーンが一番好きだった。
 闇夜の風の音の不安。対照的に、古びた家のなかでは、温かな炉辺がある。義姉との歳の差という形で、主人公の年齢がさりげなく明かされる。(ただし、「数え」なのか、「満」なのかがよくわからない)
 主人公は、炉端に。母はすぐ傍らに。義姉は座って繕いもの。父は酒を飲んでおり、次兄は鎌を研いでいる。
戸を叩く音がして、義姉が扉を引き開けると、そこには……。

 それぞれの登場人物の家の中での位置ははっきりしており、キャラクターの違いもよくわかる。

 ところが。

 御堂が戦闘をやっている傍らで「智次が暢気に説明」しているシーン。戦闘の横で、村人たちは平然と智次を取り囲む。その距離はどれほどか? 村人はなぜ逃げない。智次もなぜ避難を勧めずに、のんびり標本を取り出しているのか。
 冒頭シーンで鮮やかだったキャラ同士の位置関係や、性格づけは、このシーンでは見ることができない。
 このように、「書ける方」だということが判ったあとで、違和感の強いシーンがあると、読者としてはかなり戸惑う。この戸惑いが、読後感がいまひとつだった一因であるように思う。


 最初に「満」と「数え」の点は挙げたが。「時代」の匂いが薄いのもこの作品の残念な点である。ただ、これは(日記に)長編化にあたっては資料を集めていらっしゃるとあり、作者も気にかけておられるのかもしれない。

 キャラクターとして一番「立って」いるのは、残念ながら、将校・伊与田貴一である。悪役である。これはこの作品にとって、あまり幸福なことではないと思われる。

 再読をした最大の収穫は、自分が主役に関して大誤読をしていたことに気づくことができたことだ。

 四つの土まんじゅうを見下ろすように立つ二人。
 一人は少し時代遅れの書生のような格好をした青年。短く刈り上げた髪。がっしりとした体格。背が高い。
(中略)
 もう一人は華奢な感じの都会風の男で、黒い洋服を着ていた。肩の辺りで無造作に切られた髪。細面で女性的な風貌。(中略)
 背は書生風の青年の肩ぐらいまでしかないが、青年の背が人並み以上に高いだけで、男が特に小さいというわけではないようだ。
 その男の切れ長の目が、ゆうを捉えた。
 冷ややかな黒い瞳の輝きの奥に、禍々しい赤い光が閃くのが見えた。

 ……たしかに、こうして引用してみると、「切れ長の目」をしているのは「華奢な感じ」の2人目である。ところが、初読のとき、私はここを読み飛ばした、らしい。ずっと、目が赤いのはデカいほうだと思っていたんである。
 誤読しておいて、作者のせいにするのは、大間違いなことを承知の上で。愚痴として読んでほしいのだが。

 背は書生風の青年の肩ぐらいまでしかないが、青年の背が人並み以上に高いだけで、男が特に小さいというわけではないようだ。←この改行は不要
 その男の切れ長の目が、ゆうを捉えた。

 あー。ここ笑うとこですからね。しかし「その男」といった代名詞の前後は、意外にこういう落とし穴は多いのだ。読者にとっても、作者にとっても。


 この誤読をさっぴいても。

 主役側3人の存在感は、伊与田に勝てていないように思われる。

 まず主役、御堂有情。たぶん、作者の中では、彼は無口な美形であり、長い年月を一人で生き抜いてきた寂寞の念を持つキャラで、闇を恐れる甘やかな一面をあわせもつ。が、残念ながら、短編のなかにその全てを詰め込もうとして、切れ味を失している感があった。ラスト、ゆうに過去を語るシーンで、無口なはずの彼が、弁舌爽やかなのも、違和感がある。
 77枚の作品のなかで3枚半をさいた、もうひとりの不死の青年のエピソードも、御堂の孤独を語るにはいささかハンパに見える。これは長編化のための隠し玉として温存して、ゆうの前で妻子の死を語らせるだけにする手もあったのではあるまいか。

 智次についても

助手になった当初は働き者だったくせに、昨今はどうも手抜き気味だ。

 妙に、裏ありげな描写があるのだが、このあたりも面白オカシイ効果を上げるより、短編としての完成度を拡散させる副作用のほうが強いように思う。

 ゆうも、当初の描写は、純朴な農村の少女であるのに。みょうに「おしゃま」というか乙女というか、ラス2の台詞は違和感がある。

「奥さんの生まれ変わりかもしれないもん……」

 本来この台詞は、物語のシメ役を担う「名台詞」を置くべき位置であり、この台詞を言わせるだけのために、物語中で「女の子」を「少女」にまで成長させる価値がある。だが、ゆうにはそれだけの成長を遂げた感じがないし、もっと困ったことに、ゆうにこの台詞を吐かせるだけの魅力を御堂が見せきれていない。むしろ尸虫が呼びあってるような想像をさせる。
  
 さて。尸虫を宿した者は、不老不死を身に着ける不死性を身に着ける、という。ゆうが少女から成長できるのかどうかも、気にかかる。



 重箱の隅をつつくように、いろいろ書いてしまいましたが。
 キーとなる尸虫の設定といい、名作『超人ロック』や『ポーの一族』を連想させる「時を生き抜く」というシチュエーションといい。この物語は、素晴らしいものになるバックボーンを持っていると思います。
 長編化した本作を読ませていただけることを、期待いたします。

 作者様のサイトでか、──それとも??

[6/18追記]
作者様からTBをいただきました(嬉) すみません、TBがきわめて目立たないのは、このテンプレの仕様です^^;<自作なんで、愚痴のもっていき先もない。

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  1. 2006/06/17(土)
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コメント

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  1. 2006/06/18(日) 09:40:02 |
  2. |
  3. #
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  5. [ 管理]

ご無沙汰しております

その説は、作品に、色々アドバイスいただきありがとうございました。
なんとか一次には通ったものの、予定どおり(笑)二次落ちしたので、早速投稿作品をサイト連載はじめました。
出版にこぎ着けて御礼できたら最高でしたが、さすがにムリでした。(笑)
サイト掲載は、まだ序章だけで、このあたりは短編の時とほとんど同じですが、次回掲載する一章からは別物になってます。
お暇がございましたら読みにきてくださいね。
URLのところに作品直のアドレス入れておきます。
ではでは。
  1. 2007/03/02(金) 19:59:32 |
  2. URL |
  3. 南方南 #oely/y8c
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  5. [ 管理]

いらっしゃいませ。。。読めるのは嬉しいような。。。でも。。。うーん複雑です。いまちょっと無理なので、ちょっと時間あいたら、うかがいますね。
  1. 2007/03/11(日) 00:04:11 |
  2. URL |
  3. 麻生(阿檀) #z8Ev11P6
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麻生新奈さんが「尸虫之闇~大正ゾンビ・ハンター」への辛口批評をかいてくださいました。ありがとうございますっ!!◆アラクネの書棚◆南方南氏『尸虫之闇~大正ゾンビ・ハンター』(FT,77枚)酷評をしてくださるとの連絡を頂
  1. 2006/06/18(日) 17:42:27 |
  2. 南南風(旧・AKI部屋)

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