アラクネの書棚

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

  1. --/--/--(--)
  2. | URL
  3. | EDIT

林氏『空から降り注ぐ音符と歌詞』(幻想SF小説、36枚)

「どこかにな」
 地下酒場。砂渡りの集まる安い酒場だった。そこは砂漠に呑まれた街の、未だに生きている地下部分の外れにあった。
「年に一度だけ、楽譜の降り注ぐ砂漠があったそうだ」
 雪のように、灰混じりに、空から降って来るそうだ、と応じる男の声がした。

 戦争によって多くの文明が失われた世界で、空から降る楽譜を求めた男の物語。

■林氏サイト『文技研』→完結作品→短文→「空から降り注ぐ音符と歌詞」

⇒テンプレートdt4_f_otofuruで、続きを読む。

“dt4_f_otofuru”:林氏の物語を下敷きに、メインイラストきむろみ氏、イラスト以外の修飾画像とHTML/CSSを私が担当して制作した、ブログテンプレート。
Open▽
 テンプレート制作の際に、何度か読み返したにもかかわらず。
 最近、数ヶ月ぶりにまた読んでみて、かなり印象が違うことに驚いた。作者に確認したが、手は入れていらっしゃらないとのこと。
 それを強く感じたのは、序盤の酒場のシーンだ。
 最初のころ読んでいたときは……数回読んだとはいえ、初回の印象を強く引きずっていたと思う……、この物語は「砂漠世界を駆け抜けた」という感覚があった。私が学生時代に仲間うちで「ドライブ感覚」という語が流行していたのだが、物語が読者の鼻先をひっつかみ、一つの世界の中を疾走する感覚を指した。この物語も、そんなイメージが残っていた。
 ところが、再読してみると、序盤の酒場の時間はゆったりと流れ、そのシーンの間に世界観が立ち上がってくる。読者が作者に連れられて走り出す前のタズナは押さえこまれていて、読者が世界の空気をじっくり吸い込む余裕があるのだ。
 主人公の回想が出立するのと同時に、読者の視点も動き始める。砂漠から、廃墟を越えて。どこか影絵にも似た、ぎざぎざと尖るモノトーンの世界。
 旅の果てで、主人公は「塔」を発見する。よく読むと、廃墟と塔を登る途中で、主人公が食料や小道具の入手が手短に、しかし主人公が最低限生き延びることができるよう描き込まれている。
 少し話がそれるのだが、
「男は文句なしにありがたくそれを持っていった。」
という一行が、けっこう好きだったりする。文明崩壊前の道具を手に入れるのを職業とする「砂渡り」たちであれば、まるで(天然の)金鉱を見つけたのと同じ感覚でそれを手にしただろう。主人公には、それが古人からの「盗み」であるという意識がどこかに残っているような気がする。それでいて、それを置いた者たちがすでにもう亡いことも十分理解している。遠慮せず、必要とする者としてそれを持ち出してゆく。どこか優しく、また育ちが良い感じが、こんな短い一行からも伺われるのだ。
 そして、主人公は、精神感応樹に楽譜が「実る」軌道橋の内へたどり着く。
 読者の想像が作者の想定と合っているかどうか直接確認するというのは、感想書きとしては若干「ずる」じゃないかという気もするのだが。めったにない良い機会だったこともあり、自慢たらしく書いてしまおう。
 上記で書いたとおり、テンプレートのメインイラストのきむろむ氏と私、それに作者・林氏はイメージあわせもあって、何度かチャットした。その際に、このシーンのことが話題になった。私は、この精神感応樹をガラスファイバーのような半透明感と金属光沢のある感じで想像していた。きむろみ氏は、鮮やかな原色の色彩に近かったという。
 作者の林氏はというと、「黒に近い」というのだった。かなり機械的で、ダークなイメージ。
 これだけの違いがありながら、きむろみ氏や私がこのシーンの「豊穣感」を受け取るのに、何の支障も来たしていないのが、面白い。
 そのつもりで物語を読み返すと、このシーンで描写のフォーカスが当たるのは、「楽譜」であって、葉や茎の色彩感覚は描かれていない。ちょっと文章を書く方ならご存知と思うが、過剰な描写は物語のスピード感を落としてしまう。スピード感を保ちつつ豊かなイメージを伝えるのは決して簡単なことではないが、一つの手段が「省略」である。一番肝心な事物を中心に描写を描き込み、それ以外のものは略していくのだ。その焦点距離と視点移動が適切であれば、読者はほとんど「省略」に気づかなかったりする。……後で他の読者や作者と、読み合わせでもしない限り。
 この物語の中で、もっとも印象的なシーンは、主人公が探し求めて来た「楽譜」を見つけるシーンの、その直後だと思う。「音」。ヒロインが覚醒(と言っていいのか?)……主人公の存在を認識し、彼女が長い年月をかけて作り上げてきた音楽を、鳴らすシーンである。膨れ上がる音の描写。そこには視覚的なものはむしろ少ないにもかかわらず、読み終わった後に一番印象に残っていたのは、生い茂る樹木と鳴る花や実、そこに身動き一つなく立つ美しいヒロインだった。
 彼女は……、自分を犠牲にして、主人公を地上へ帰す。それは、自己犠牲ではあるのだが。彼女はやはり……狂っていたような気がする。音楽への妄執、のようなもの。そういう意味では、主人公も、かなり、変だ。同じ物への、文字どおり物狂おしいまでの、こだわりと、愛。二人は、ある意味で互いを愛していたと同時に、同じものへの愛で結び付けられている。
 読み終わると。クライマックスのシーンと、この「感情」の残響が、台座にはめこまれた宝石のように、強烈な印象を残す。そのせいで、たぶん、冒頭の酒場のシーンのような、それ以外の部分の記憶が、薄れていたのだろう。
 しかし、きっちりと作り上げた台座があってこそ、光の強い宝石を支えうる。
 この物語は、そんな作品であったように思う。

Close△


- オンラインノベル読書感想記/小説・文学

  1. 2010/03/26(金)
  2. | URL
  3. | TB:0
  4. | COM:2
  5. | EDIT

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2010/08/02(月) 02:36:12 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]
  5. [ 管理]

Re: 秘密の秘密コメント

これはね、あれですよ。「作る生き物」を二つ、一つの窓の中に置いておくと、暴走する、みたいな。
……たいへん楽しませていただきました。
  1. 2010/08/03(火) 02:04:51 |
  2. URL |
  3. 麻生/阿檀 #nzi/10PQ
  4. [ 編集]
  5. [ 管理]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://arachne.blog61.fc2.com/tb.php/79-9fd3210d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad


Template:AdanKadan

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。